アグリ支援機構 宇都宮大学農学部

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コラム
「自然制御」はおごり

  県内でおいしいコシヒカリがとれるといわれる湯津上村の稲作農家を調査したときのことです。せっかく、何十年もかかって作り上げてきた田の土が、農業基盤整備の工事で混ぜこぜにされ、もう元には戻らない、と嘆かれたことがありました。先年訪れたドイツの農家は、おやじの代よりフムス(腐植土)層が2cm増えた、と誇らしげでした。農民魂ともいうべき、農家の土を愛する気持ちは古今東西変わらないようです。地力を豊かな状態に保った上でないと、健全な農業が成り立ちません。このため農地は、その所有者は替われど、世代を超えて地力維持が図られてきたのです。地力を損なわないで、次世代に引き渡していく行為は、未来世代に対する責任といえるでしょう。今日の環境問題のキーワードの一つは「持続性」です。この責任を果たさないと、複雑な生態環境の下で行われる生産を持続的にできないことは、農業の世界では、古くから知られていました。  

ゴミ袋対策実験中の様子とカラス

●地球を犠牲に

ところで昨年、農学部の教員有志で「農学における技術者倫理」を考える研究会を立ち上げ、農業にかかわる技術者がどんな倫理問題を抱えているのか、アンケート調査をしてみました。最も多い回答内容が、例えば「重油を使用するハウスでの花生産は、人間の心を癒やすものを供給する半面、温暖化など地球を犠牲にしていることに矛盾を感じる」といった、化石燃料の利用の功罪にかかわるものでした。これはもはや、農地という局所における持続性の課題ではありません。今日の地球環境問題の元凶が、化石燃料にあまりにも依存した技術進歩・産業発展の仕方にあることは疑いの余地がないでしょう。確かに石油は、再生不可能な資源で、やがては利用しつくされます。無機質材料を工業用製品にするエネルギーを産出するために燃やすだけで、かつ二酸化炭素を放出するという問題も抱えています。  

●謙虚さが必要

  したがって、生物資源という再生可能な資源に依存した、環境負荷をもたらさない技術への転換が図られるべきです。実際、企業においても近年サービサイジングの発想が急速に浸透してきています。しかし、本当に考えなければならないのは、山田有希子助教授が前々回に指摘した、人間の精神の汚染の問題です。問題の本質は、化石燃料依存技術をもたらした、資本の倫理、人間労働だけが価値を生むという考え方、自然をコントロールできるというおこりだったのではないでしょうか。再生可能な生物資源利用技術の開発にあたっても、技術そのものに対する謙虚さ、倫理観をもつことが必要と思われます。ある著名な分子生物学者が「木をみて森をみない研究者は、やがて森の存在を否定する」と警告しました。私たちは他者によって生かされているので、相手に対する思いやりや感謝の気持ちが大切なことを、よく認識しています。同様に、地球の複雑な生物圏の中で私たちも生かされていることに、気がつくべきではないでしょうか。  
掲載
(2005年5月1日 下野新聞掲載)
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