アグリ支援機構 宇都宮大学農学部

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コラム
省エネで環境に優しい

  牛海綿状脳症(BSE)問題のために、身近な食べ物だった牛丼が私たちの口に入りにくくなりました。政府は食品の安全と安心を確保するために公正中立な食品安全委員会を設置しています。この委員会には牛肉の輸入再開のための政治的・経済的な圧力が国内外から掛かっている模様です。しかし、この圧力の度合いは測定できません。  

ゴミ袋対策実験中の様子とカラス

(普通に炊いた米(左下)高圧で炊飯した米は形がよく保たれ、ご飯が立っておいしい(右下))

●物質を“支配”

一方、われわれは日常生活で天候の変化を大気の圧力である気圧で表しており、地上付近の気圧の大きさは一気圧です。地球における圧力の差は大きく、エベレスト山頂は 0.3気圧と非常に低く、逆に深海底10キロではおおよそ100気圧ととても高くなります。この圧力は温度とともに物質の性質を支配する最も重要なパラメーターです。常圧下で氷は0度で水に変わり、水は100度で水蒸気に変わります。家庭で使われる圧力鍋は、ふたと本体を密閉して体積を一定にすることで蒸気を中に閉じ込め、内部圧力を1.1〜1.3気圧に上昇させます。これにより水の沸騰点が約120度に高まるのでより短い時間でおいしいものを調理することができるのです。もっと圧力が高くなったらどうなるでしょう。6,000気圧もの超圧力を食品に加えると、体積の減少は15%程度で、発熱もわずかですが、熟したのと同じように物質の状態が変化します。この超高圧を熱の代わりに食品の加工に利用することが林力丸・元京都大教授によって提唱され、欧米でも日本をしのぐ勢いで広まっています。日本では鮮やかな色のいちごジャム、美味な炊飯米、天然果汁などが加圧加工食品として市販されています。  

●常温・短時間

  加圧加工の利点は、低温から常温で、短時間に、食品をほぼ生のままに保つことができ、栄養素の損失もなく、省エネルギーで環境に優しいことです。私の研究室では、食用タンパク質の水溶液を室温で4,000〜8,000気圧で十分間加圧することによっていろいろな組織のゲルを誘導し、その機構を明らかにする研究を行っています。タンパク質の種類と濃度、その環境、圧力を変えることによって種々の硬さのゲルを調製することができるのです。また、高圧下ではゲルを誘導できなかったタンパク質でも、ある物質を加えることで可能となることを世界で初めて見いだし、これを昨年の国際生物関連高圧会議で発表しました。加圧装置も年々改善され、加熱に比べて省エネとなる高圧加工は、まさに地球温暖化対策にも寄与する安全な食品加工法として期待されています。この方法が普及することで、一段とおいしくて安全な食品を楽しめる日がすぐそこまできています。  
掲載
(2005年4月24日 下野新聞掲載)
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