アグリ支援機構 宇都宮大学農学部

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コラム
豊かさの象徴、貴重な財産

  県内で八溝山地以外の山林を歩くと、いたるところに髪の毛のように柔らかな葉の草が茂っているのが見られます。これはクロヒナスゲと呼ばれ、全国的には非常に珍しく、岐阜県、三重県、愛媛県のごく一部にしか分布しません。  

ゴミ袋対策実験中の様子とカラス

●固有遺伝資源

数年前に、ある大学の知人からこの植物の株を送るように頼まれました。理由を聞くと「アメリカの研究者から頼まれて送る」というのです。私は生きた株を送るのを思いとどまってもらいました。日本固有の遺伝資源をむやみに海外に出すのは好ましくない、との思いからでした。しかも、アメリカは1992年のリオサミットにおいて生物多様性条約が日本を含む157カ国の加盟で締結されようという席上に大統領が乗り込み「われわれは加盟しない!」と公言し、ひんしゅくを買っています。その地域にだけにしか見られない生物は、その土地の豊かさの象徴であるとともに、遺伝資源として将来思いもよらない経済的価値を生む可能性を秘めたかけがえのない財産です。そして、遺伝資源の潜在的価値は生物多様性の豊かさに裏付けられています。これは生物進化の所産であり、人類が決して作り出せないにもかかわらず、その存続は人の手に委ねられています。  

●規制措置な

  条約締結後、世界各国は、自国の生物多様性の保護と遺伝資源の海外への流出を厳しく制限する国内法を次々と整備しています。私がタケ類の研究でブラジル・バイア州に滞在した時には、既にその規制が始まっており、学術目的の乾燥標本であっても、国外への持ち出しは困難でした。ところが、日本では遺伝資源の海外流出の規制が全くない一方で、外来生物の流入は長い間野放し状態でした。いわば、日本は自国の生物多様性と遺伝資源の保護に関しては大変遅れている国なのです。今年6月には念願の特定外来生物被害防止法(外来生物法)が施行され、37種が規制対象に選定されています。撲滅か擁護か、の大論争を呼んだブラックバスも指定され、その防除に国の責任が問われることになりました。けれども、日本の野生植物を研究する立場からみると、指定種数があまりにも少なく、その実効性には歯がゆい思いです。侵略的な外来種ワースト100にノミネートされ、在来の自然生態系に大きな脅威となっている多くの生物が対象外となっているからです。温室トマトの受粉用に輸入されたセイヨウオオマルハナバチや裸地の緑化工植物として大規模に使用さているシナダレスズメガヤなど、結局は経済価値が優先され、棚上げにされています。いまや生物多様性の保全は世界の本流です。日本でも平成14年に国家戦略として閣議決定され、各地方自治体の環境保全のガイドラインとなっています。”多種性豊かな自然は子孫からの借り物”として長く末代に受け渡すには、身近な自然は私たち自身の自主的な判断と行動で守る、という確固とした立場が必要ではないでしょうか。  
掲載
(2005年4月10日 下野新聞掲載)
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